プロ野球は交流戦を終え、オールスター戦までの折り返しに向け、全国各地で熱戦が繰り広げられている。
そして7月に入り、いよいよ高校野球の地方大会も開幕。
球児たちが甲子園を目指して白球を追う姿は、日本の夏の風物詩といえるだろう。
そんな「熱い夏」に、ひとつの出来事が警鐘を鳴らした。
6月27日、埼玉西武ライオンズの今井達也投手が、ベルーナドームでの日本ハム戦の最中に熱中症を発症。4回で緊急降板したのだ。
マウンドにしゃがみ込む姿に、球場の空気は一変。プロの現場ですら、暑さは選手のパフォーマンスと健康を脅かす現実となっている。
ベルーナドームは一応“屋根付き球場”ではあるが、横は開いており、空調設備はごく限定的。
夏は蒸し暑く、春先には底冷えする独特の環境として知られており、「ドーム=快適」というイメージとはほど遠い。
今井投手のケースは、その現場の過酷さをあらためて浮き彫りにした。
選手だけではない。応援に駆けつけたファンや、グラウンドスタッフ、関係者にとっても、熱中症はすぐ隣にあるリスクだ。
夢中になればなるほど、自分の体調の変化に気づきにくくなる。
喉の渇き、めまい、頭痛、だるさ——これらは熱中症のサイン。
「ちょっとおかしいかも」と思ったときには、すでに身体は限界寸前ということもある。
ここで注目したいのが、プロ野球と高校野球における“開催環境の違い”だ。
プロ野球では、7月〜8月に屋外球場で開催される試合はすべてナイター。
観客や選手の安全を考慮し、直射日光を避けてプレーできる時間帯を選んでいるのだ。
一方、屋根付きのドーム球場ではこの時期も一部デーゲームがあるが、空調や照明によりある程度の環境制御が可能だ。
では、高校野球はどうだろうか。
現状、地方大会から甲子園本大会に至るまで、屋外のデーゲームが基本。
しかも、多くの球場にはナイター設備が整っているにもかかわらず、試合は真夏の昼間に開催されている。
選手たちは試合だけでなく、アップ、応援、移動などでも長時間炎天下にさらされる。
「青空に白球」——この言葉に、どこか郷愁を感じる人も多いだろう。
照りつける太陽、白いユニフォーム、舞う土埃。
青春の象徴として、多くの人の心に焼きついている風景だ。
だが、それも今は昔。
猛暑が常態化した現代では、ロマンは命に勝てない。
「水を飲んではいけない」「気合いで乗り切れ」
そんな根性論がまかり通っていた時代もあった。
なお、筆者が現役球児の時代はその時代であった(笑)。
だが、気候がここまで過酷になった今、当時の「我慢」は通用しない。
美しい思い出は大切にしつつも、それを次の世代に“そのまま引き継ぐ”ことは、決して正義ではない。
だからこそ、高校野球も“ナイター開催”という選択肢を真剣に考える時期に来ているのではないだろうか。
もちろん、課題はある。
運営体制、照明設備の有無、近隣住民への配慮、選手の生活リズム、安全性、1日あたりの消化試合数——簡単にはいかないことは重々承知だ。
しかし、それでも問い直すべきではないか。
“伝統”のために、“命”を削ってはいけない。
選手の安全を守るのは、大人の責任だ。
そして野球というスポーツそのものを、未来に引き継いでいくためにも、「変えるべきこと」は変える勇気が必要だと思う。
プロでも、熱中症で倒れる選手が出る現代。
高校野球にも、もっと選手を守る開催方法があってもいいはずだ。
熱中症は、備えれば防げる。
でも本当の予防とは、「仕組み」を見直すこと。
選手、観客、スタッフ——誰も倒れない、誰も無理をしない野球を目指したい。
この“熱すぎる野球の夏”に、いま一度、問い直したい。
この暑さの中で守るべきは、“伝統”ではなく、“選手たちの未来”かもしれない。
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