企業が安定した売上を上げていくには、顧客満足が欠かせない。提供する商品やサービスを通じ、顧客が「対価に見合った満足」を得られているか。そして、顧客が「対価を超えた満足」を感じた時、購買頻度が増えたり、購入量や単価が上がったり、紹介に繋がるなど、企業にとって大きなメリットが生まれる。企業は様々な形で顧客満足を高める努力を続けているはずだ。
しかし、「従業員満足度を高めれば、本当に顧客満足も向上するのか?」という疑問を抱く方もいるだろう。その答えを探るために、サービス・プロフィット・チェーン(Service Profit Chain)という理論に注目してみたい。
目次
「好循環」を生むサービス・プロフィット・チェーンとは?
これは1994年にハーバードビジネススクール名誉教授のジェームス・L・ヘスケット氏らが提唱したビジネスモデルだ。その核心は、「従業員満足が顧客満足を高め、それが企業収益の向上、ひいてはさらなる従業員満足に繋がる」という**好循環を生み出す考え方**にある。
もう少し具体的に分解してみよう。
* 従業員満足度が高い従業員は、高品質なサービスを顧客に提供する。
* 高品質なサービスを体験した顧客は満足度が向上する。
* 顧客満足度が高まると、リピート率や購入単価が向上し、ポジティブな口コミや紹介が生まれる。
* 結果として企業の業績が向上し、その利益が従業員に再投資(還元)され、さらなる従業員満足へと繋がる。
この好循環は、以下の7つの段階を経ると言われている。
1. 企業が従業員満足度を高める。
2. 従業員満足度が向上し、従業員のロイヤルティ(忠誠心)が高まる。
3. 従業員ロイヤルティが向上し、生産性が高まる。
4. 生産性が向上し、顧客へのサービス品質が高まる。
5. 高いサービス品質により顧客満足度が高まる。
6. 顧客満足度が向上し、顧客ロイヤルティが高まる。
7. 企業は業績向上によって得られた利益を従業員に再投資(還元)し、成長サイクルを確立する。
顧客へのサービスの担い手である従業員のサービス品質に焦点を当て、そのインプットとアウトプットに注力したこのビジネスモデルは、極めて合理性が高いと言える。有名な企業では、ザ・リッツ・カールトンやスターバックス、星野リゾートなどがこの考え方を活用しているとされている。
大企業だけの特権か?中小企業での可能性
「これは大企業だけが導入できるビジネスモデルだろうか?」そう思われるかもしれない。確かに経済力や人的資本が豊富な大企業は導入しやすいだろう。しかし、私は中小企業、あるいは小規模企業でもサービス・プロフィット・チェーンの構築は可能だと考える。
ここで最も大切なのは、「何から始めるか」である。
サービス・プロフィット・チェーンでは、最初の段階として「従業員満足度の向上」が挙げられている。しかし、私はそのさらに前段階、いわば「0次」の段階があると考える。それは、従業員にとっての「働きがい」と会社の「収益」だ。
見過ごされがちな「働きがい」と「収益」の定義
この0次の段階では、まず「働きがいとは何か」を定義し、経営側が従業員の働きがいを深く理解する必要がある。同時に、従業員側も「会社収益」を自分たちの目標として捉える必要があるのだ。
それぞれの要素を分解してみよう。
働きがい: 単なる労働の対価だけでなく、仕事を通じた自己実現、社会貢献、他者からの承認といった内発的な充足感。
会社収益目標: 従業員が働いた結果として収益が向上し、会社が持続的に成長することを目指すこと。
この0次の段階で、経営側と従業員がこれらの要素を相互に深く理解した上で、初めて真の「従業員満足」とは何かを考えることができる。
「あいまいさ」をなくし、真の従業員満足へ
そうすると、従業員満足は単なる昇給や休暇、福利厚生といった表面的なものではなく、「もっとお客様に喜ばれたい」「もっと信頼される人になりたい」といった、仕事を通じた自己実現欲求に近づく。そして、その欲求が満たされることこそが、顧客へのサービス品質向上に直結するものだと私は考える。
ここで重要なのは、「あいまいさをなくしていくこと」だ。
例えば、「もっと信頼される人になりたい」という従業員満足があったとしよう。それが具体的にどのような状況で本人がそう感じるのかを明確にする必要がある。「自分で作った企画が認められた」「責任者として任された」「周りから感謝された」など、様々な状況が考えられる。ここを本人が自認し、経営者や上司側が正確に把握しておく必要があるのだ。さらには、どのように能力が発揮されたときにそう感じたのか、あるいは感じることができなかったのか、少なくとも半年に一度は面談で確認していく必要がある。
また同時に、会社収益目標も経営と従業員側で共有しておくべきだ。売上高ベースで目標を共有する企業は多いが、売上総利益(粗利)ベースで共有する企業は一部に留まるだろう。私は、財務活動や特別損益を除く全ての業績が包含される**「営業利益」ベースで目標を共有すること**を強く推奨している。
経営と従業員が手を取り、成長サイクルを生む支援
私は中小企業診断士として、このような経営と従業員の意識合わせ、そして好循環を生み出すためのコーディネートも行っている。従業員にとってはせっかく勤めた会社であり、会社にとってはせっかく入社してくれた従業員なのだ。
この良い循環を生み出す支援を通じて、貴社の持続的な成長をサポートしたい。
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