これは、ある親子の物語である。
私の中小企業診断士仲間である平井さん(仮名)と、ご子息の吾郎くん(仮名)のエピソードだ。
2026年8月28日、金曜日。
二人は初めて、野球の聖地・阪神甲子園球場で、阪神タイガース対読売ジャイアンツ戦を観戦した。
夏休み最後の週末となるこのカードと、甲子園での観戦は、吾郎くんたっての希望だった。
平井さんは何とかチケットを入手し、吾郎くんを甲子園に連れてくることができた。
心配された天気も回復し、無事に試合が開催されることになった。
阪神甲子園駅を降り立った二人は、階段を下り、甲子園球場までのアプローチを並んで歩く。
そして阪神高速下をくぐり抜けると、蔦に覆われた甲子園が、二人の前に堂々とそびえ立っていた。
ひとつの映画と、東京ドームで確信した憧憬。
二人が阪神タイガースファンになったのには、きっかけがあった。
それも、そんなに昔のことではない。
昨年末に上映された映画『栄光のバックホーム』である。
『栄光のバックホーム』は、2023年に亡くなった元阪神タイガースの選手、横田慎太郎さんの実話を映画化した作品だ。
横田さんの生き方はもちろん、家族の絆、そして横田さんを支え続けた球団やチームメイトの姿に心を打たれ、二人は阪神タイガースを好きになったという。
こんなにも優しく、強いチームがあるのかと。
そして、二人にとっての初めての阪神戦の現地観戦は、2026年3月28日、東京ドームでの巨人戦だった。
髙橋遥人投手の完封勝利。
ライブで観る野球の痺れる展開、そして目の前で躍動する選手たちの姿に触れ、二人はすっかり阪神ファンになった。
そしていつしか、吾郎くんの中に、
「いつか必ず、甲子園で観たい」
という思いが強くなっていったのだ。
憧れの聖地甲子園。雨上がりの浜風と芝の香り。
それから5か月。
二人は甲子園歴史館で、タイガースと甲子園の歴史に触れ、胸を高鳴らせたあと、16号門から甲子園球場へ足を踏み入れた。
レフト外野席の階段を登り、自分たちの席へ。
通路を抜けた瞬間、目の前に広がる鮮やかな天然芝。
この日は、首位阪神と2位巨人による天王山・3連戦の初戦。ゲーム差はわずか1.5。
超満員の観客が発する熱気と、大一番ならではの息をのむような緊迫感が球場全体を包み込んでいた。
雨上がりの浜風に乗って、芝の匂いがかすかに漂ってくる。
吾郎くんにとって、待ちに待った憧れの甲子園の景色だった。
甲子園での歓喜の勝利と、時を越えて届いた親子への贈り物。
そして、試合は初回から動いた。
1回裏。
近本光司選手が、先頭打者ホームラン。
甲子園が大きく沸き、勝利への道を切り拓いた。
3回裏には、佐藤輝明選手と大山悠輔選手の連続タイムリーで2点を追加。
さらに5回裏。
森下翔太選手の二塁打を足掛かりに、1アウト三塁。
ここで打席に立ったのは大山悠輔選手だった。
カウントは3ボール。
悠然と振り構えたバットから放たれた打球はライトへ。
貴重な追加点となる犠牲フライとなった。
投げては、村上頌樹投手が7回1失点の好投。
そして、160キロリリーバーコンビの木下里都投手と工藤泰成投手が、無安打無失点で試合を締めた。
4対1。
阪神タイガースの勝利。
もちろん、タイガースの選手たちの躍動が、この勝利をもたらした。
しかし、ファン目線でこの一日を見れば、もう一つの「勝利」があったのではないだろうか。
吾郎くんが夢見ていた、甲子園での阪神戦観戦。
その夢を、平井さんは「勝利」という最高の形で叶えてあげたのだ。
そして、この日のこの瞬間を迎えることができたのは、何と言っても横田慎太郎さんの存在があったからこそだ。
「亡くなっても、ファンの心の中で生き続ける」
よく、そう言われる。
でも、横田さんが残したものは、それだけではないのかもしれない。
横田さんは、新たなファンを生み、そのファンに新しい出会いを与え、そして親子にかけがえのない思い出まで届けてくれた。
一人の野球選手の生き方が、時を越えて、誰かの人生に新しい物語を生み出していく。
野球って、やっぱり素敵だ。
平井さん、吾郎くん。
甲子園での初観戦、そして最高の勝利、おめでとうございます。
夏休み最後の、かけがえのない親子の思い出になりましたね。
そして、横田慎太郎さん。
素敵な思い出をもたらしてくれて、本当にありがとうございます。
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