27年半の長きにわたって生命保険会社に勤務していた私が、これからの生命保険のあり方について考えてみたい。
私は生命保険会社でのキャリアのほぼすべてを、支社や営業所などの「現場」で過ごしてきた。
営業職員さんや、保険代理店の募集人さんを支援することが仕事だった。
その支援には、もちろん教育や育成も含まれる。
少し固い言葉で言えば、「募集品質を高め、お客様からの信頼を得る」ために、研修や営業同行などを行ってきた。
よく、「生命保険会社は教育産業だ」と言われる。
生命保険会社は「教育産業」なのか
生命保険会社の内勤社員は、営業拠点に勤務していたとしても、基本的には直接お客様を担当するわけではない。
お客様との直接的な接点が生じる場合も、クレーム対応などが中心になる。
だからこそ、生命保険会社の営業は「間接営業」とも呼ばれている。
間接営業である以上、募集人さんへの教育は欠かせない。
生命保険会社の内勤社員は、自らが直接お客様に商品を販売するわけではない。
だからこそ、募集人さんを通じて、自社の商品がどのように販売され、どのようにお客様のもとへ届けられているのかを意識し、徹底して教育を行う。
さらに、生命保険業界には、こんな言葉もある。
「生命保険は人から入るもの」
同じ生命保険商品であっても、販売者である募集人さんが違えば、お客様にはまったく違う商品に映ることがある。
それだけではない。
お客様は、商品そのものだけではなく、「この人なら任せられる」と募集人さんを信頼するからこそ、生命保険という大きな契約を結ぶ。
だからこそ、お客様から選ばれる募集人さんであり続けてもらうために、生命保険会社は教育や育成に力を注いできた。
この構図や背景は、私が新卒で生命保険会社に入社した約30年前と、ほとんど変わっていない。
では、これからも、この形のままでよいのだろうか。
もちろん、募集品質を高め、お客様からの信頼を得ていくことは、これからも必要である。
お客様から選ばれる募集人さんを育てるために、生命保険会社の内勤社員が尽力していくことも、これからも続いていくだろう。
ただ、私は最近、それだけでは足りないのではないかと感じている。
生命保険は「もしもの後」だけを支えるものなのか
生命保険がお客様のお役に立つのは、どんな時だろう。
病気やケガをされた時。
万が一、お亡くなりになられた時。
もちろん、一部には変額保険や一時払の外貨建保険など、資産形成・資産運用の面でお役に立つ商品もある。
しかし、生命保険の本質を考えれば、お客様が病気やケガ、死亡などの不測の事態に遭われた際に、経済的な支えとして機能することにある。
だからこそ、これからの生命保険会社には、お客様の人生に寄り添った商品開発やサービス展開を、もっと考えていく必要があるのではないだろうか。
現在も、多くの生命保険会社が「付帯サービス」として、無料の医療相談やセカンドオピニオン、医療機関の紹介などを提供している。
これは、もちろん素晴らしいサービスだと思う。
ただ、私には、まだ「付帯サービス」という位置づけにとどまっているように感じられる。
「付帯サービス」である以上、基本的には保険契約そのものとは別の位置づけであり、保険契約上の保障としてお客様に約束されているものではない。
また、その多くは外部の専門会社などと連携して提供されている。
つまり、生命保険会社の「本業」である保障と、こうしたサービスとの間には、まだ一定の距離があるように思う。
では、これをもっと進化させることはできないだろうか。
「付帯サービス」から、その先へ
生命保険にご加入いただいたお客様が、保障の対象となる傷病に罹患された場合に、給付金をお支払いする。
それだけではなく、お客様の人生そのものを支える。
そんな生命保険をつくることはできないだろうか。
もっと言えば、今ある「付帯サービス」をさらに進化させ、生命保険会社が契約上のサービスとしてお客様に約束する。
そんな商品があってもよいのではないか。
例えば、こんな商品である。
「〇〇生命に入っていたから、あの病院を紹介してもらえて、咽頭がんで声を失わずに済んだ」
「〇〇生命の検査で前がん病変が見つかった。あの時に見つけてもらえなかったら、進行がんになっていたかもしれない」
前者は、治療への積極的な関与である。
お客様が自力だけではたどり着けなかった医療情報や選択肢を提供し、より良い治療につなげる。
後者は、未病への取り組みである。
病気になってから給付するのではなく、病気になる前に発見し、予防や早期治療につなげる。
これは、お客様にとって幸いなことであるだけではない。
早期発見・早期治療によって重症化を防ぐことができれば、生命保険会社にとっても、長期的にはリスクの抑制につながる可能性がある。
つまり、お客様と生命保険会社が、ともにメリットを享受できる可能性があるのだ。
こうした商品が実現すれば、生命保険会社は「万が一の時にお金をお支払いする会社」から、一歩先へ進むことができる。
お客様の人生に寄り添い、人生の重要な岐路における意思決定にも関わる。
まさに、「生命」保険と呼べる商品になるのではないだろうか。
これは夢物語なのか
では、そんな生命保険は実現できるのだろうか。
私は、可能性は十分にあると思っている。
そのカギのひとつが、FinTech(フィンテック)だ。
FinTechとは、Finance(金融)とTechnology(技術)を組み合わせた言葉で、IT技術を活用して新しい金融サービスを生み出す動きや、その領域全体を指す。
身近なところでは、キャッシュレス決済やスマートフォンを使った送金などがある。
資産運用の分野では、AIなどを活用した自動資産運用サービスが普及している。
会計・経理の分野でも、クラウド会計によってバックオフィス業務が大きく効率化されている。
そして、保険の分野にはInsurTech(インシュアテック)がある。
例えば、生命保険や医療保険では、健康増進型保険が登場している。
ウェアラブル端末などから歩数や睡眠といったデータを取得し、健康状態や生活習慣の改善に応じて、保険料の割引や特典などにつなげる仕組みだ。
自動車保険では、テレマティクス保険が普及している。
ドライブレコーダーやスマートフォンなどから走行距離や運転データを取得し、安全運転の状況に応じて保険料などに反映する仕組みである。
さらに、保険金・給付金の請求手続きにおいても、AIや画像認識などのテクノロジーが活用されている。
このように、金融とテクノロジーの融合は、すでに私たちの生活の中に入ってきている。
そして、その進化のスピードは非常に速い。
だからこそ、私は思う。
本気で取り組む生命保険会社が現れれば、先ほどの話は、決して夢物語ではないのではないか。
「病気になったら給付金を支払う」のではなく、
「病気にならないために支える」
「病気になった時には、より良い治療につなげる」
「その結果、お客様の人生そのものを支える」
そんな生命保険があってもいい。
むしろ、これからの生命保険には、そうした方向への進化が求められているのではないだろうか。
27年半、生命保険会社の「現場」にいたからこそ、私はそう思う。
このブログで書いたことが、いつの日か、
「あの時、こんな生命保険があったらいいと書いていた人がいた」
と思い出してもらえるような、未来の予言になっていることを願いたい。
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