改正保険業法施行後のソリシターの役割~一番に相談される担当者

はじめに

2026年6月1日、改正保険業法が施行された。
今回の改正は、単なる法令改正ではない。
保険業界全体が、お客様本位の業務運営へと大きく舵を切る契機となる重要な改正である。
近年発生した保険金請求に関する不適切事案や、企業向け保険を巡るカルテル問題、さらには一部の保険会社による代理店への過度な便宜供与などを背景として、保険業界に対する社会的な信頼は大きく揺らいだ。
これを受け、金融庁は「顧客本位の業務運営」をさらに徹底するため、保険募集のあり方だけでなく、保険会社と代理店の関係性そのものを見直した。
もっとも、今回初めて代理店の自立や体制整備が求められるようになったわけではない。
代理店が主体的に業務運営を行い、適切な募集管理体制を構築することは、これまでも段階的に求められてきた重要な課題である。
今回の改正は、その流れをさらに強化し、「比較推奨販売」「代理店の管理態勢」「保険会社による代理店支援のあり方」を、より顧客本位の観点から見直したものといえる。

そして、この改正によって大きく役割が変わるのが、保険会社の代理店担当者、いわゆるソリシターである。
これまでソリシターには、自社商品の販売支援や営業推進が強く求められてきた。
しかし、これからは違う。
募集人がお客様本位の募集活動を実践できるよう支援し、代理店の募集品質向上や体制整備を支える「伴走者」としての役割が、これまで以上に重要となる。
その理由を理解するためには、まず今回大きく見直された比較推奨販売ルールについて整理しておく必要がある。

1.比較推奨販売ルールは、なぜ見直されたのか

今回の改正において、代理店実務へ最も大きな影響を与えるテーマの一つが、比較推奨販売ルールの見直しである。
乗合代理店は、複数の保険会社の商品を取り扱っている。
そのため、お客様へ商品を提案する際には、「なぜその商品を推奨するのか」を合理的に説明できなければならない。
改正前の比較推奨ルールには、「イ方式」「ロ方式」「ハ方式」という3つの考え方があった。
それぞれ、商品を推奨する考え方が異なる。

イ方式

商品を比較して、お客様に選択していただく方法
イ方式とは、取り扱う複数の保険会社の商品について、それぞれの特徴や違いを説明し、お客様自身に選択していただく方法である。
比較対象が明確になるため、公平性が高いというメリットがある。
一方で、乗合代理店が取り扱う保険会社が10社あれば10社、20社あれば20社の商品を比較する必要がある。
募集人には、各社商品の保障内容や引受基準、保険料水準、付帯サービスなどを正確に理解し、説明できる高度な知識が求められる。
さらに、お客様にとっても、多くの商品を比較した上で、自分に最適な商品を判断することは決して容易ではない。
選択肢が増えるほど、お客様の判断負担も大きくなる。
つまり、イ方式は公平性が高い反面、募集人・お客様双方にとって負担の大きい比較推奨方法であった。

ロ方式

お客様の意向を起点に商品を推奨する方法
ロ方式では、まずお客様が何を重視しているのかを丁寧に確認する。
例えば、がん保険の相談であれば、
・保険料はできるだけ抑えたい
・がん診断給付金は何度でも受け取れる商品が良い
・セカンドオピニオンや専門医紹介などの付帯サービスを重視したい
・現在加入している保険の良い部分は残しながら、不足部分だけ補いたい
など、お客様の意向を具体的に確認する。
その上で、
「診断給付金の支払限度を重視されているため、この商品がお客様のご意向に沿っている。」
「医療相談サービスを重視されているため、この商品の付帯サービスがお役に立てると考える。」
というように、お客様の意向と商品の特徴を結び付けながら推奨を行う。

今回の改正では、このロ方式が原則となった。
重要なのは、「何を販売したか」ではない。
お客様の意向を起点として、その商品を推奨した理由を説明できることである。

ハ方式

代理店独自の理由で商品を推奨する方法
ハ方式とは、お客様の意向だけではなく、代理店独自の推奨理由に基づいて商品を提案する方法である。
例えば、
「当社では、この保険会社の商品を推奨保険会社としている。」
「この商品について継続的な研修を受けており、高い品質で募集できる。」
「事務処理に精通しているため、迅速なアフターフォローが可能である。」
といった理由がこれに当たる。
ハ方式には、募集人が特定の商品に習熟することで、結果としてお客様へのサービス品質向上につながるという側面もあった。
また、お客様が特定の保険会社や商品を希望される、いわゆる「指名買い」のケースでは、その意向を尊重することが前提となる。
しかし一方で、募集人が「本当にお客様の意向を尊重したのか」、それとも代理店の方針を優先したのかは、募集人本人しか分からないという、事実上のブラックボックスになりやすいという課題もあった。

さらに、保険会社と代理店の関係においては、推奨保険会社として選ばれることを目的とした競争が激しくなり、その結果として、特定商品の販売を促進するための過度な支援や便宜供与の温床となってしまった。

代理店への営業支援は本来必要なものである。
しかし、その支援が行き過ぎると、代理店が本来、自らの判断と責任で行うべき業務にまで保険会社が関与することとなり、代理店の自立性や主体性を損なう結果につながる。
また、大型代理店の影響力が増す中で、保険会社間の競争は激化し、代理店への支援も次第にエスカレートしていった。
例えば、募集人採用への関与や、本来代理店が担うべき業務への過度な関与、さらには推奨保険会社として選ばれることを目的とした過度なオーバーライドなどは、お客様の意向よりも保険会社と代理店の利害関係が商品選定に影響を及ぼしかねず、比較推奨販売の公正性を損なうものとして問題視された。

こうした状況を是正するため、今回の改正ではハ方式が廃止され、比較推奨販売は原則としてロ方式へ一本化された。
これから募集人に求められるのは、
「代理店の方針だから」
「事務処理に慣れているから」
という理由ではなく、
「お客様の意向に照らして、なぜこの商品が最も適しているのか」
を説明できる募集活動である。
そして、その募集品質を支えることこそが、これからのソリシターに求められる新たな役割なのである。

2.比較推奨販売に係る記録等の保存と、適切性を確認・検証する体制づくり

今回の改正では、比較推奨販売そのものだけではなく、その募集プロセスを適切に記録し、後から確認・検証できる体制を整備することが、これまで以上に重要となった。
従来から、募集内容や契約に関する記録を残すことは求められてきた。
しかし、改正後に重視されるのは、「どの商品を販売したか」という結果だけではない。
なぜその商品を推奨したのか、その判断に至るまでのプロセスが、お客様の意向に基づいたものであったことを客観的に確認できることが求められる。
例えば、
* お客様はどのようなご意向を持っていたのか
* そのご意向をどのような対話を通じて確認したのか
* 比較対象となる商品をどのような基準で選定したのか
* なぜその商品がお客様のご意向に最も適していると判断したのか
* 他にどのような選択肢があり、それらをどのように説明したのか
といった一連の募集プロセスを記録し、必要に応じて第三者が確認・検証できる状態にしておくことが重要となる。
これは、募集人を管理・監視することを目的としたものではない。
むしろ、お客様に対して「なぜこの商品をご提案したのか」を、自信を持って説明できるようにするための仕組みである。
また、募集人自身を守ることにもつながる。

例えば、数年後にお客様から「なぜこの商品を勧められたのですか」と尋ねられた場合でも、当時のお客様のご意向や提案内容が適切に記録されていれば、その提案が顧客本位の考え方に基づくものであったことを説明することができる。
適切な記録は、お客様のためだけではない。
募集人自身を守る重要な証拠にもなるのである。

もっとも、現場では「お客様との対話に加えて、記録まで丁寧に残すのは大変だ」という声が聞かれることもあるだろう。
実際、今回の改正によって、募集人にはこれまで以上に高い募集品質が求められることとなる。
しかし、それは単に記録を増やすことが目的ではない。
お客様のご意向を正確に把握し、そのご意向に沿って商品を提案するという、本来あるべき募集プロセスを可視化するための取り組みなのである。
だからこそ、代理店としては、募集人個人の努力だけに任せるのではなく、誰もが適切な募集活動を実践できる業務フローを整備することが重要となる。
例えば、
* 意向把握のヒアリング項目を標準化する
* 比較推奨理由を記録しやすい様式を整備する
* CRM(顧客管理システム)などを活用し、募集プロセスを一元管理する
* 管理者が定期的に記録内容を確認し、募集品質の向上につなげる
といった仕組みづくりが求められる。

そして、この体制整備を現場で支える存在こそが、保険会社のソリシターである。
これまでは、「商品改定がありました」「新商品が発売されました」「今月はこの商品をお願いします」といった営業活動が中心であったかもしれない。
しかし、これからはそれだけでは十分ではない。
募集人が比較推奨販売を正しく理解し、お客様の意向をどのように確認すればよいのか、どのように推奨理由を整理すればよいのか、どのような記録を残せばよいのかまで支援できる存在でなければならない。

言い換えれば、ソリシターに求められる役割は、「販売促進の担当者」から「募集品質の向上を支援する専門家」へと大きく変わったのである。
だからこそ、代理店から「困ったときには、まずあの人に相談しよう」と思われるソリシターの存在価値は、これまで以上に高まっていくのではないだろうか。

3.改正保険業法施行後、ソリシターに求められる「頼りがい」とは

比較推奨販売の見直しや、募集プロセスの記録・検証の強化によって、募集人に求められる知識や判断力は、これまで以上に高いものとなった。
だからこそ、ソリシターに求められる役割も大きく変わる。
これまでのソリシターは、自社商品の販売支援や営業推進が中心であった。
もちろん、その役割がなくなるわけではない。
しかし、これからはそれだけでは代理店から選ばれる存在にはなれない。
募集人が本当に困ったときに相談したくなる存在。
それこそが、これからのソリシターに求められる姿である。

例えば、お客様のご意向を確認した結果、
「保険料負担は抑えたい。」
「しかし、がん診断給付金は何度でも受け取れる保障が欲しい。」
というご希望だったとする。
自社商品は保険料面では優れている。
しかし、診断給付金の保障内容では他社商品の方がお客様のご意向に近い。
このようなケースは、決して珍しいことではない。
そんな場面でソリシターは、
「ウチのほうが保険料は安いですが、保障面では完全に負けています。あとはお客様がどちらを選ばれるかだけです。」
と言い切れることである。

また、こんな場面もあるだろう。
「現在加入している保険は他社商品だが、この保障内容は残した方が良いだろうか。」
「当社商品へ全面的に切り替えるべきか、それとも一部だけ見直すべきか。」
といった相談である。
そうなってくると、お客様の現在のご契約の約款まで読み解く必要がある。

さらに、生命保険では引受査定もある。
こんなケースもあるだろう。
体況上、他社では保険料の割増や特定部位不担保などの条件が付く可能性が高い一方、自社では標準体で引き受けられる見込みである。
しかし、保障内容だけを比較すると、他社商品の方がお客様のご意向に近い。
このような場面で募集人は、
「保障内容を優先すべきか。」
「引受条件を優先すべきか。」
という難しい判断を迫られる。
このとき募集人が相談したいのは、
「ぜひ当社の商品をお願いします。」
と言うソリシターではない。
「体況査定面では当社商品に強みがあります。一方で、保障内容は他社商品の方がお客様のご意向に近いですね。
ただし、他社で特別条件付き契約となった場合、その条件が将来の保障見直しや契約更新に影響する可能性もあります。
保障内容だけではなく、その点も含めて、他社のご担当者にもご確認いただいたうえで、お客様へご説明いただく必要がありますね。」
と、他社の特別条件付き契約の留意点まで踏まえて助言できるソリシターこそ、募集人にとって頼りになる存在ではないだろうか。

今回の改正で比較推奨販売が原則ロ方式となった以上、ソリシターにも、自社商品だけを知っていればよい時代は終わった。
もちろん、他社商品の細かな内容まで完全に把握することは現実的ではない。

しかし、少なくとも市場の中で自社商品がどのような特徴を持ち、どのようなお客様のご意向に適しているのかを客観的に説明できる知識は必要である。

また、募集人から相談を受けたときには、単に商品知識を提供するだけでは十分ではない。
「どのように意向確認を行えばよいのか。」
「どのような推奨理由であれば、お客様にも納得いただけるのか。」
「どのように記録へ残せば、後から募集プロセスを説明できるのか。」

こうした一連の募集活動まで支援できることが、これからのソリシターには求められる。
私自身、保険会社に在籍していた頃を振り返ると、ソリシターには営業推進という役割が強く求められていた。
もちろん、それは会社員として当然の役割である。

しかし、今回の改正保険業法によって、その役割の重心は確実に変わっていくであろう。
これから評価されるソリシターとは、「どれだけ販売したか」だけではない。
「代理店の募集品質向上にどれだけ貢献したか」が問われる存在である。

代理店の経営者や募集人から、
「困ったら、まずあの人に相談しよう。」
そう思われる存在になれるかどうか。

そこに、これからのソリシターの価値があるのだと思う。

4.「商品推進者」から「代理店の成長支援者」へ

改正保険業法の施行によって、ソリシターの役割はこれまで以上に大きく変わろうとしている。
もちろん、自社商品の知識を提供し、その魅力を正しく伝えることは、これからも重要な役割である。
しかし、それだけでは代理店から選ばれるソリシターにはなれない。
比較推奨販売が原則ロ方式となり、お客様の意向確認や推奨理由の説明、さらには募集プロセスの記録と検証が重視される時代となった。
募集人には、これまで以上に高度な募集品質が求められる。
だからこそ、ソリシターには商品知識だけではなく、募集品質そのものを支援する力が求められるのである。
例えば、
* お客様の意向を引き出すためのヒアリング方法
* 商品特性を踏まえた比較推奨の考え方
* 推奨理由をどのように整理し、説明するか
* 募集プロセスをどのように記録へ残すか
* 管理者が募集品質をどのように確認・改善していくか

こうしたテーマについて、代理店とともに考え、改善を支援できることが、これからのソリシターには求められる。
さらに、特定大規模乗合保険募集人に対する体制整備義務の強化や、保険会社による代理店管理の高度化など、代理店経営を取り巻く環境は今後ますます変化していくであろう。

その中で、代理店が健全に成長し続けるためには、商品を販売することだけではなく、法令等遵守や募集品質の向上を支えるパートナーの存在が欠かせない。

ソリシターは、代理店を管理する立場ではない。
また、一方的に指導する立場でもない。

代理店と同じ方向を向き、お客様本位の業務運営をともに実現していく伴走者であるべき存在である。

募集人から、
「このケースはどう考えればいいだろう。」
「この提案でお客様の意向に沿っていると言えるだろうか。」
「この記録の残し方で問題ないだろうか。」
そのような相談を真っ先に受ける存在になること。
それこそが、改正保険業法施行後に求められるソリシターの姿である。

まとめ

2026年6月1日に施行された改正保険業法は、比較推奨販売のルールを見直し、ハ方式を廃止してロ方式を原則とするとともに、募集プロセスの透明性をより重視する制度へと転換した。
その背景には、お客様本位の業務運営を徹底するとともに、保険会社と代理店の関係をより健全なものへと見直そうという考えがある。
今回の改正によって、募集人には、お客様の意向を丁寧に把握し、その意向に基づいて商品を推奨した過程を適切に記録し、説明できることが求められるようになった。

そして、その実践を支える存在として、ソリシターの役割も大きく変わる。

これから求められるのは、自社商品の販売を推進する担当者ではない。

代理店の募集品質を高め、法令等遵守体制の整備を支援し、募集人が安心してお客様本位の提案を実践できる環境をともにつくる「代理店の成長支援者」である。

私は、今回の改正保険業法がソリシターに問いかけているのは、「どの商品を販売するか」ではなく、「代理店とともに、お客様本位の業務運営をどのように実現していくか」なのだと考えている。

募集人から、
「困ったときは、まずあの人に相談しよう。」

そう思われるソリシターが一人でも多く増えることが、代理店の募集品質を高め、ひいては保険業界全体の信頼回復につながるものと考える。

中小企業診断士 小池俊

中小企業診断士 小池俊

経営コンサルタント/保険業専門成長コーチ

経営コンサルタント/保険業専門成長コーチ
トラリアル中小企業診断士事務所 代表
経済産業大臣登録 中小企業診断士(登録番号426896)
中小企業庁認定 経営革新等支援機関(認定支援機関番号109313005610)
公益財団法人 日本生産性本部 認定経営コンサルタント(認定番号241008)
一般財団法人 日本能力開発推進協会認定 上級心理カウンセラー
株式会社かんき出版 登録研修講師
徳島出身、東京在住
野球好き
阪神タイガースファン

アクサ生命にてCAP(代理店担当社員)MVPを3度受賞。東京海上日動あんしん生命では、東京の支社を日本一に導く。
通算1000社以上の保険代理店を支援し、1000社以上の法人契約営業に同行。
営業エキスパートとして実績を積み、研修講師として経験を重ねる中で、大腸がんを罹患。
闘病を通じて、「人を育て、次世代に残すこと」の重要性と、「がんに罹患した経営者の不安」という課題に向き合う。
「保険で給付金を受け取れても、その後の会社はどうなるのか?」
その問いに向き合うべく、中小企業診断士を志す。 日本生産性本部の養成課程を修了し、2024年5月に独立。
現在は、保険業専門成長コーチ・研修講師として人材育成や組織づくりを支援。また、中小企業の経営支援も積極的に手掛ける。
通算500回以上の研修登壇実績を持つ。

得意分野は営業、研修、マーケティング、事業計画、組織活性化、コーチング、カウンセリング。

志は、企業の発展と働く人の幸せに貢献できる中小企業診断士になること。

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